国会図書館で読みつづけているジブリ小冊子「熱風」バックナンバー。
目をとおした2003年バックナンバーについて、記録をかねてざっくり気になったところをまとめる。
参考:ジブリ小冊子「熱風」バックナンバーの全タイトルはこちらにあります。
2003年ってどんな時代か?
2003年というと今からもう15年前になる。
流れがはやい現代においては、まったく様子が変わっていることにおどろく。
ほんの15年前と言いたいところだが、スマホもなければガラケーだって出たばかりだった。
コンビニにはコーヒーなんてなかったし、インターネットだってまだまだ怪しい存在だった。
そんな時代に創刊されたのがジブリ「熱風」である。
2003年の特集は以下のとおり。
- 1月 日本人の食卓
- 2月 自転車と暮らせば
- 3月 NPOを知っていますか?
- 4月 本屋さんがいま考えていること
- 5月 線で描かれた似顔絵だから伝わること
- 6月 キリクと魔女
- 7月 美術館と子ども
- 8月 私とNPO
- 9月 変わりゆく町の図書館
- 10月 キャラクター大国、日本の中味
- 11月 エコカーって欲しい?楽しい?
- 12月 コンビニはどこへ行く?
まだ初期ということでアニメーションにまつわるもの(本や絵)が多かったようにも感じた。
が、こうして並べてみると、すでに多彩なラインナップといえそうだ。
ジブリがいかに時代の風をキャッチし続けているかということを痛感するおもしろい話題ばかり。
ジブリの2003年のこと
2003年はジブリにとってどんな時期だったのか。
「千と千尋の神隠し」が世界的な大ヒットを果たしたあとという感じだ。
2001年:「千と千尋の神隠し」が史上最高の興行収入308億を記録
2002年:ベルリン国際映画祭 金熊賞受賞、米国など世界公開
2003年:アカデミー賞長編アニメーション部門 受賞、「金曜ロードショー」視聴率46.9%を記録
などなど、まだまだ冷めやらぬという感じで社会現象が続いていた。
そういったなかで満を持しての月刊誌スタートだったのかもしれない。
ちなみに「熱風」創刊にあたり、この「敢えての紙で希少価値」という方針に「その手があったか」とつぶやいた糸井重里さん。
糸井さんの「ほぼ日新聞」は98年のスタート。
98年といえばまだインターネットなんて本当に表示がスロウだったし、出てくる情報もかなり精査しないと信憑性がわからなかった。
小さい小さい穴の向こうにうっすら見える広い世界を懸命に覗いているかような感覚でネットをやっていたのを思い出す。
そんな時代からメディアを運営している糸井さん。
今、糸井さんが当時書いた「インターネット的」という本が「預言書のようだ」と話題になっている。
ほぼ日が98年にスタートしていると聞くとインターネットに対する嗅覚のすごさをあらためて思い知る。
さてそんなジブリ小冊子「熱風」バックナンバー2003年の流し読み。
いくつか気になったものについて備忘録。
高畑勲さん連載「1枚の絵から」
高畑さんのアートへの知見の広さにあっとうされる連載。
有名な芸術家も出てきて楽しいし、その分析力や知識量がすごくて、とても勉強になる。
印象に残っているのは、北斎の虎図。
高畑さんいわく「まるでディズニーアニメのようにポップ」なこの虎。
なんと80歳を過ぎてからの作品。
たしかに驚き。北斎のすごさがよく分かる1枚。
高畑さんの文章は、描写がみっちり理論的なのになぜかチャーミングで毎回夢中になって読める。
これ本にしてほしい。
大塚康生さん連載「プロデューサーの夢-藤岡豊さんのこと-」
高畑さんや宮崎さんを育て、ジブリでも新人育成や採用などに関わったという元アニメーター大塚康生さんの連載。
宮崎さんが、高畑さんとのお別れ会のメッセージで言及していたことで知った。
この連載では大塚さんがアニメーター時代に一緒に仕事をしたプロデューサー藤岡氏とのエピソードを語っている。
これは面白すぎて面白すぎて、あとでじっくり読みたくなって第一回しか読んでいない。
あとっていつなのか。
しかしこのときは国会図書館に2、3回通えばバックナンバーが読破できると勘違いしていたから、サクサクと読んでいきたく焦っていた。
だから次々いくぞと何かに追われて、思わず横においてしまった。
それにしても。
ジブリは名物キャラクターの集合体である。
個性をしっかり発揮できる土壌があるという証拠だが、本当にその層が厚くて、掘っても掘ってもおもしろい。
というのは、大塚さんが紹介してくれている藤岡氏もすごいキャラなのだが、じつはこの大塚さん自体もかなりのユニークキャラ。
鈴木さんが糸井さんとの「ほぼ日」での対談で紹介されていてめちゃくちゃおもしろい。
ほぼ日刊イトイ新聞 – ジブリの仕事のやりかた。
それも、いいもんですよね。 たとえば、いま自分の中で 「革命」 という言葉って、何にも響かないんです。 それこそ「冷蔵庫に革命が起こった」から 「日本は革命が必要だ」まで、どんな表現でも 「革命なんか起こしたら、 他のとても大切なことが、 10年遅れちゃうんじゃないか?」 という恐怖さえ感じるような表現なんです。 革命の焼け野原があったおかげで、 生きていること自体のおもしろさが なくなっちゃうんじゃないかというか…… 「革命」よりも、 現実的な「変化」のほうが、 ずっといいなぁと思います。
ジープが好きで、急にいなくなる。
そういう上司って困るけど、それぐらい人生楽しんでいる人ならきっと許せてしまうのではないか。
自分もそうしたい、とは言わないけれど、そういう遊び心は忘れたくないと思う。
そして、大塚さんが藤岡さんを紹介するこの文章を見ていて思ったこと。
鈴木さんの口調が、大塚さんに似ている。
高畑さんや宮崎さんに対しても、おおらかな対応ができる大塚さんの存在は大きかったようなので、きっと鈴木さんも大きな影響を受けたのだろう。
なお大塚さんは「作画汗まみれ」というアニメーションの作画について解説した本を書いていて、これも面白い。
アニメーター志望のかたなど参考にされるといいのではないか。
今日のテクノロジーとの兼ね合いは不明。
「キリクと魔女」への河合隼雄氏の寄稿
6月号「キリクと魔女」の特集に、好きな作家の河合隼雄さんが寄稿していて驚いた。
この人たち(ジブリ)の交友関係の広さすごい。
河合隼雄さんは日本の心理学者で私のバイブル的名著「心の処方箋」を書いた人。
ジブリとはまったく関係なく大好きな作家さん。
そんな自分の好きな人たち同士がつながっていると、不思議と嬉しい気分になった。
糸井重里さんの寄稿
糸井さんの投稿でとくに印象的だったのが、圧倒的にひらがなが多かったこと。
ページをひらいた瞬間から読みやすさがダントツだった。
さすが日本語をビジュアルからもとらえてコピーを書いてきた人。
そしてはやくからインターネット媒体で書いていらっしゃった人。
今、山のように出ている「WEBライティング」に関する本よむかわりに、糸井さんのコピーやライティングをたくさん読んでみたほうがいいかも。
それぐらい、一瞬で「画面ごと」持っていかれるすごさがあった。
ということで、糸井さんのライティング、研究しようと決意。(今)
その他、美術の男鹿さんの連載や、石井朋彦さんなど、まだ初年ということもあり親しみある顔ぶれがそろっている。
2003年の流し読みは以上。
ジブリ小冊子「熱風」バックナンバー全タイトル
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